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空き缶ひとつ拾えないちっぽけなオレ

地下鉄車内の床に落ちていた空き缶が、発車にあわせて静かに動きだした。

うわ、嫌だな、自分のところに転がってくるなよ、と思う。

 

思いが通じたのか、空き缶は向かいの女性の足元へと転がり、つま先に当たって止まった。

さあ、女性はどうするかなと、視線の片隅で様子を伺った。

 

40代後半もしくは50代前半というところだろうか、良く言えば馴染んだ、悪く言えば着古したTシャツを着たその女性の、次の行動は鮮やかだった。

バッグから取り出したレジ袋らしきもので空き缶をつまむと、くるっとひっくり返して中に収め、そのままバッグに仕舞った。

 

その短い動作の間、彼女は乗客を見回すなど、周りを気にする様子を微塵も見せなかった。

 

儀式にのっとった所作のような華麗で美しい一連の動きは、

 

鬱陶しい、面倒くさい、邪魔だ、汚いと思う、

わたしの愚心にズシリと突き刺さってきた。

 

 

戸惑いを隠すため、取り出した本を読み始めるが、さっきからずっと同じ行を眺めているだけで先に進めない。

 



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