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又吉直樹先生の「火花」を読んでアートに対するもやもやがフワッと消えました

これからどうしよう? 本から考えてみる
どんなに押しつけがましい発明家や芸術家も、自分の作品の受け手が赤ん坊であった時、それでも作品を一切変えない人間はどのくらいいるのだろう。過去の天才達も、神谷さんと同じように「いないいないばあ」ではなく、自分の全力の作品で子供を楽しませようとしただろうか。
 
上の文章は、又吉直樹「火花」からの引用です。

 

火花 (文春e-book)

火花 (文春e-book)

 

 

文中の神谷さんは、主人公の先輩芸人。
2人で公園にいる時、傍らで泣いている赤ん坊がいました。
先輩芸人はその赤ん坊をあやそうと、訳をわからない川柳をたてつづけに詠みます。赤ん坊はそんなの分かるわけなく泣き止みません。
そこで、主人公は赤ん坊に対する定番のあやし方「いないいないばあ」をします。
 
そんなくだりの文章です。
 
 
 
 
広告の仕事の場合、制作のプロセスや完成品のその先に、いつも誰かがいます。面識はなくとも名前も知らなくとも明確に届けるべき、届けなくてはならない相手がいます。
だから、表現するときは、届けるべき相手の(想像上の)顔を思い浮かべ、その相手にあわせた表現を心がけます。
 
 
そんな広告の仕事の傍ら、僕は妻とともにアートイベントも時に開催したりしています。
地方の空き家や古民家を舞台に、複数のアートストが作品を展示するこじんまりとしたイベントです。メジャーなアーチストを起用できるほど予算もなく、地元を中心に細々と活動しているアーチストが中心のイベントです。
 
で、そんなアートストたちの作品を見ていて、いつも思うことがあります。
 
 
アートは、相手によって作品・作風を変えるべきか否か、です。
 
 
もうすでに◯◯といえば◯◯、といわれるほど作風や個性を確立したアーチストは、その独自の作品を見るために人は集まってきますからそんな心配をすることはありません。
ただ、まだあまり知られてなく作風や個性が浸透していないアーチストは、どこまで見る人のことを意識しているのだろうかと時折疑問に思います。
 
アート、特に現代アートの場合、分かる人だけに分かればいい、というセリフを口にするアーチストがいます。
でもそれって作品への歩み寄りを否定することになりはしないのかな。
 
複数のアーチストが集まるグループ展の場合、イベント色が強いせいかもしれませんが、人気不人気がはっきりと出てしまいます。
いや、人気不人気とはちょっと違うかな。滞在型か素通りと言った方が正しいかもしれません。
 
お客さんが展示箇所に入って、さっと見てすぐ出て行ってしまう展示と、ある程度の時間滞在してじっくりと鑑賞する作品。
 
その違いはどこに?
 
素通りされてしまう作品には、なんの説明もなく、分かってもらおうという意思がない作品です。
かたや、じっくり鑑賞作品はキャプションなどを丁寧にわかりやしコトバで書き、なんとか分かってもらおうという試みがあります。
 
 
 
 
「火花」のなかにもうひとつ、おもしろい、というか興味深いシーンがありました。
 
主人公と先輩芸人が公園を散歩している時、なにやら珍しい楽器を演奏している若者と出会います。
主人公らは、その楽器が珍しくどんな演奏をするのかどんな音がするのかと立ち止まり眺めます。
すると、若者は注目されるのが不快なのか演奏をやめてしまいます。
 
それを見て先輩芸人が叫びます。
 
「ちゃんと、やれや!」「お前がやってんのは、表現やろ。家で誰にも見られへんようにやってるんやったら、それでいいねん。でも、外でやろうと思ったんやろ?俺は、そんな楽器初めて見た。めっちゃ格好良いと思った。だから、どんな音がすんのか聴きたかったんや。せやのに、なんで、そんな意地悪すんねん。聴かせろや!」
 
 
これです。ここを読んで、もやもやと消えました。
 
アートを展示するということは表現。なのに、キャプションも不明瞭で説明も下手で分かってもらおうという努力のない作品。一体何のために表現活動しているの?と疑問に思います。
 
見てもらいたいから感じてもらいたいから発表の場を設けているのでしょうが、見てもらう感じてもらう努力をしているのかどうかが疑問なんです。もったいないとしか言いようがありません。
 
 
それにしても「火花」はおもしろかった。
受賞の背景に、ほんの少し芸人だから、という事情があったかもしれませんが、「第2図書係補佐」を読んで、ああ、この人は獲るべくして獲った人だな、と確信。
「第2図書係補佐」はほんとにいい文章。紹介されている本すべてを読みたくなってしまう。

 

第2図書係補佐 (幻冬舎よしもと文庫)

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