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義侠を味わう 物語を味わう

酒を呑んだ。名古屋在住のアメリカ人と酒を呑んだ。
その酒の名は「義侠」という。

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What does “Gikyou”mean? と彼に尋ねられた。むずかしい。自分のボキャブラリーに義侠の英訳はない。こういう時は翻訳アプリだ。

「義侠」→「Heroism」と出た。英雄主義か、なにか違う。
 
「義侠」そのものの意味を辞書アプリで調べた。
「正義を重んじて、強い者をくじき、弱い者を助ける」と出た。
 
これを訳せば「義侠」という単語の意味を伝えられる。でも、それで日本酒「義侠」の意味するところを伝えたことになるのだろうか。
 
 
日本酒の銘柄には、物語がある。
 
3年間アートイベントでお世話になっている豊田・足助町には「範公」という地酒がある。その銘は、鎌倉の世に足助を治めていた弓の名手・足助次郎重範公に由来する。
 
 
 
岐阜は恵那・岩村町にある岩村城は、日本三大山城のひとつで、戦国時代、信長の叔母・おつやの方が治めていた。この地で作られる酒のひとつに「女城主」というものがある。
 
 
 
ならば「義侠」にも「義侠」たるべき物語があるはずだ。
調べてみた。
 
 
「義侠」は、愛知県愛西市にある山忠本家酒造で醸されている。
創業は古く、江戸時代中期という。
明治の頃、山忠本家はある小売商と年間契約を結んでいた。ある時、米の価格が高騰し採算が合わなくなった。小売価格をあげればいいのだが、そうしなかった。
契約を結んでいた小売商のために、採算度外視で元の価格のまま提供し続けた。
その男気に感謝し、小売商は酒に「義侠」という名を贈った。それが由来らしい。
 
 
 
物語を知る前と知った後では味は変わるのだろうか。
味そのものは変わらない。
だけど変わる。
ガラス製の猪口に揺らぐ透明な液体に、プロジェクションマッピングが投影されたかのように物語が浮かび上がってくる。
口に含んだ酒は、細胞のひとつひとつに、おい、お前に男気はあるか、と問いかけてくる。自信のなさからか、酔いが早い。
 
 
 
「義侠」を味わったのは、碧南市にある日本料理店「小判天はなれ 一灯」
店主には、今秋、仕事で大変お世話になりました。
「小判天はなれ 一灯」は、碧南をはじめとする南三河野菜、魚介、畜産、そして醸造品を使った料理を提供しています。
 
その日味わった料理の一品一品に、南三河の生産者の物語が多く秘められていることでしょう。
育てる物語、収穫する物語、長い歳月熟成させる物語、いくつもの物語が「一灯」のまな板の上で、今一度新たな物語として紡ぎ出されます。
そして色とりどりの器の上から語りかけてきます。
 
食を味わうこと、それは物語を味わうこと。